乱流と遷移:構造、多重スケール、モデル

京大 数理解析研究所 RIMS共同研究(公開型)

開催日程 2018年7月18日(水)--20日(金)

開催場所 京大 数理解析研究所 420号室 (交通案内)

研究代表者 藤 定義 (京都大学 理学研究科)


プログラム

(PDF)


7月18日 水曜日

13:25--13:30 研究代表者 挨拶
13:30--14:00 本告遊太郎*、後藤晋 (阪大院基)
14:00--14:30 岸達郎*,松本剛,藤定義 (京大院理)
14:30--15:00 楊静遠*、後藤俊幸、渡邊威(名工大工)、三浦英昭(核融合研)

15:30--16:00 稲垣和寛*(東大生研)、有木健人(東北大院)、半場藤弘(東大生研)
16:00--16:30 三浦英昭 (核融合研)
16:30--17:00 半場藤弘 (東大生研)

7月19日 木曜日

9:00--9:30 Gustavo Gioia*, Rory Cerbus, Chien-Chia Liu, and Pinaki Chakraborty (OIST)
9:30--10:00 Rory Cerbus* (OIST), Lin Li (OIST), Jun Sakakibara (Meiji univ.), Gustavo Gioia (OIST), and Pinaki Chakraborty (OIST)
10:00--10:30 蛭田佳樹*、藤定義 (京大院理)

11:00--12:00 佐野雅己(東大理)

13:30--14:30 笹本智弘(東工大理)
14:30--15:00 水野吉規*、八木俊政、森一安 (気象研)

15:30--16:00 井手優紀*、石田貴大、徳川直子 (JAXA)
16:00--16:30 松浦一雄 (愛媛大大学院)
16:30--17:00 水島二郎* (同志社大エネルギー変換研究センター)

17:30-- 懇親会

7月20日 金曜日

9:00--9:30 有木健人* (東北大工)
9:30--10:00 齋藤泉*、後藤俊幸、渡邉威 (名工大工)
10:00--10:30 安田達哉*(名工大院工),John Christos Vassilicos (ICL)

11:00--12:00 樽家篤史(京大基礎物理学研究所)

13:30--14:30 石原卓*(岡山大学)、金田行雄(愛知工業大学)、森下浩二、横川三津夫(神戸大学)、宇野篤也(理研)
14:30--15:00 河村哲也(お茶大理)、桑名杏奈(群馬大 理工)、齋藤麻由美*、菅本晶夫(お茶大理、放送大文京SC)、永田裕作(お茶大理)

15:00--15:30 [会場変更:休憩中に111号室に移動します]
15:30--16:30 横山直人(同大エネ変/関大システム理工)
16:30--17:00 荒木圭典*(岡山理大)、三浦英昭(核融合研)

講演要旨


荒木圭典(岡山理大)*、三浦英昭(核融合研)
正準モード展開で見たMHD/HMHD乱流のエネルギー輸送

Lagrange 力学的な考察の結果、非圧縮性の完全流体、非散逸MHD, Hall MHD 流体には一般化速度、一般化運動量に加え「一般化渦度」の概念が自然に導入され、一般化速度から一般化渦度を誘導する微分積分演算子の固有関数で展開するとスペクトル展開が統一的に扱えることがわかっている。今回はこのスペクトル展開を用いてMHD/HMHD乱流のエネルギー輸送を解析する。MHD/HMHDでは関数空間がパリティ反転に対して不変な2個の部分空間に自然に分解されるが、その部分空間間のエネルギー輸送に興味深い非対称性が見つかった。


有木健人* (東北大工)
Double-Lagrangian 描像に基づく乱流構成式モデル

速度の揺動場および平均場に基づく二つのLagrange 描像を用いて 、非一様・非等方な乱流の完結理論を構成した。得られた完結理論は、Reynolds応力などの乱流構成式の自己完結的導出を可能にし 、それらは座標変換に対する共変性原理や一様等方乱流に対するKolmogorov理論(K41)とも整合する。本講演では、Reynolds応力への適用例を議論し、チャネル乱流DNSとの比較を通じて理論の評価を行う。


Rory Cerbus* (OIST), Lin Li (OIST), Jun Sakakibara (Meiji univ.), Gustavo Gioia (OIST), and Pinaki Chakraborty (OIST)
Slug flows in transitional pipes

In seminal experiments reported in the 1970s, Wygnanski and coworkers made measurements of transitional pipe flow, intermittently laminar and fluctuating, in greater detail than any beforehand. Their findings led to the sharp distinction between ``puffs”, a fluctuating flow-domain of fixed length,and ``slugs”, an ever-growing fluctuating flow-domain. While puff flows showed manifest differences with turbulent flows, Wygnanski et al. compared slug flows and turbulent flows and concluded that ``the structure of the flow in the interior of a slug is identical to that in a fully developed turbulent pipe flow.” This conclusion has become an unquestioned cornerstone in our understanding of transitional pipe flow. We have repeated Wygnanski et al.’s measurements using modern experimental techniques and computer simulations and find that their conclusion comes with important caveats which are missing in the original work, and that their evidence requires a thorough reevaluation. Our results reveal a richer picture of equivalence between slug flows and turbulent flows that underscores the crucial role of the Reynolds number.


Gustavo Gioia*, Rory Cerbus, Chien-Chia Liu, and Pinaki Chakraborty (OIST)
Kolmogorovian turbulence in transitional pipe flows

As everyone knows who has gradually opened a water faucet, pipe flows are initially laminar but become turbulent at high flow velocities. At intermediate velocities there is a transitional regime in which plugs of laminar flow alternate along the pipe axis with “flashes” of fluctuating, non-laminar flow. While it is known that flashes can fission, decay, and crowd out the intervening laminar plugs, the nature of “flash flow” (the flow inside flashes) remains poorly understood. In this talk, we show experimentally that flash flow satisfies the Blasius law of fluid friction, which is diagnostic of turbulence; thus, flash flow is likely to be but turbulent flow. To verify this possibility, we show that the statistics of flash flow are in keeping with Kolmogorov's theory of the statistical structure of turbulence (so that, for example, at high wavenumbers, the turbulent-energy spectra of flash flow collapse onto the turbulent-energy spectra of turbulent flow, consistent with small-scale universality), with the implication that transitional pipe flows are segregated mixtures of a laminar phase and a turbulent phase. Our findings lend support to the widely-held, but hitherto unsubstantianted, notion that transitional pipe flows signal a non-equilibrium phase transition to turbulence.


半場藤弘 (東大生研)
乱流エネルギー散逸率の輸送方程式の消散項

k-ε乱流モデルのエネルギー散逸率方程式の理論的導出をめざし、消散項を考察する。散逸率の厳密な輸送方程式の中で消散項に相当する2つの項は、レイノルズ数による展開でそれぞれの第1項が打ち消し合い、第2項からモデル項が導かれると期待される。この機構を検証するため、乱流統計理論の式を数値計算し一様等方乱流のエネルギースペクトルを求め、モデル項の物理的起源を考察する。


蛭田佳樹*、藤定義 (京大院理)
局在構造の確率的増減を示す周期境界系の構成

円管流れの亜臨界遷移域でよく見られるような、乱流構造が確率的に増減する現象の起源について議論する。壁がない周期境界流れで、そのような現象を示す系をいくつか構成した結果を報告する。


井手優紀*、石田貴大、徳川直子 (JAXA)
Bi-localな安定解析による遷音速後退翼の境界層の二次不安定性に関する研究

本研究では,航空機の飛行条件下における圧縮性三次元境界層の遷移機構の詳細化を目的に技術参照機体(TRA2012A)の主翼に形成される境界層の遷移解析を行った.具体的には,支配的なPrimaryモードである横流れ定在渦によって歪められた時間平均場の二次的不安定性をBi-localな安定解析によって分析し,各主流位置における固有値の分布や支配的な二次不安定攪乱の種類について明らかにした.


稲垣和寛*(東大生研)、有木健人(東北大院)、半場藤弘(東大生研)
Reynolds応力の平方根テンソルを用いた乱流モデルと混合時間スケールモデル

平均化した流体の運動において,乱流の効果はReynolds応力によって記述される.これまでに様々なReynolds応力のモデリングが提示されているが,実現性条件と呼ばれる数学的拘束条件を満たすためには経験的な調整が必要となることが知られている.近年,Reynolds応力の平方根テンソルを用いることで実現性条件を必ず満たすモデリングが提示された[1].本研究ではReynolds応力の平方根テンソルを用いた乱流モデリングを試み,実際にK-εモデルの構成を行う.また従来のモデリングで経験的に導入されてきた混合時間スケールを用いたモデルと本研究で得られたモデルについて比較,考察を行う.

参考文献
[1] T. Ariki, Phys. Rev. E Vol. 92, 053010 (2015)


石原卓*(岡山大学)、金田行雄(愛知工業大学)、森下浩二、横川三津夫(神戸大学)、宇野篤也(理研)
カノニカル乱流の大規模直接数値シミュレーション - これまでとこれから [招待講演]

京コンピュータを用いた乱流の直接数値シミュレーション(DNS)では最大格子点数 12288の3乗の計算において、テイラー長に基づくレイノルズ数Rλ~2300の、統計 的な準定常状態に近いと考えられる高レイノルズ数乱流場のデータが得られた。そのデータ解析の結果、エネルギースペクトルや速度構造関数がある簡単なベキ則に従う スケール範囲が存在し、そのベキの値はKolmogorov理論(K41)におけるの慣性小領域の理論値とは大きくは違っていない、ただし、スペクトルや構造関数自体は粘性 の影響を受けている、ことがわかった。これは、従来実験等で観察されていたベキ則が必ずしも乱流の間欠的性質を説明する理論モデルの想定するベキ則ではなかったこ と、および、理論モデルの検証にはさらに高いレイノルズ数の信頼性の高い(高解像度かつ長時間積分の)大規模DNSが必要であることを意味するものである。


岸達郎*,松本剛,藤定義 (京大院理)
2次元乱流でのexit timeによる粒子対分類を用いた2粒子間相対速度の統計

乱流下での2粒子間の相対距離の統計はリチャードソン則をはじめ,これまでに様々な研究がなされてきた.一方で,実験や数値計算からリチャードソン則が確認できないという問題点を抱えている.この問題に対して,講演者らはexit time統計を用いて粒子対を分類することにより,リチャードソン則を回復することに成功した.さらに,リチャードソン則が保証された状態において,粒子対の相対速度の統計を調べたところ,コルモゴロフの現象論を用いた次元解析の結果と異なるスケーリングが現れることを発見した.本講演では,この新規のスケーリングを議論するとともに,高次の統計にも着目する.


松浦一雄 (愛媛大大学院)
層流―乱流遷移境界層渦のクラスタ解析

境界層の層流―乱流遷移では,形や挙動の異なる様々な渦が現れる。本研究では,平板境界層の直接シミュレーションを行い,そのデータに含まれる渦を低自由度化・クラスタ分類し,個々の渦クラスタ挙動を定量化するデータマイニングについて発表する。


三浦英昭 (核融合研)
Hall効果のMHD乱流の巨視的スケールへの影響

MHD乱流におけるHall項(イオンと電子の分離効果を表す項)がエネルギースペクトルの慣性小領域など、巨視的スケール、あるいはMHDスケールと呼ばれるスケールに対する影響について報告する。従来、Hall項のような微視的スケールに関わる項の影響は、大きなスケールにおいて影響が消えて、MHD乱流に漸近するものと考えられてきた。最近のシミュレーションで、この漸近性を必ずしも示さない傾向が得られたため、このシミュレーション結果について報告する。


水野吉規*、八木俊政、森一安 (気象研)
弱い不安定成層を伴う乱流境界層における運動量輸送のスケール

風洞実験により得られた風速の時系列データを用いて、弱い不安定温度成層を伴う乱流境界層における鉛直方向の運動量フラックスのスペクトル解析を行った。中立の場合は、壁からの距離を特徴的な長さとする相似的なスペクトルが得られることが知られているが、不安定成層の元でも、同様の相似性が認められた。しかし、不安定度の増加とともに境界層厚さ程度の大きなスケールの輸送が卓越し始め、スペクトルに対する上の相似性は部分的にしか成り立たないこともわかった。


水島二郎* (同志社大エネルギー変換研究センター)
急拡大列をもつ管路流れ場中における自励振動の発生

急拡大部を数個もつ管路流れは急拡大部の個数が増えるにしたがって、より不安定となって低いレイノルズ数で振動流へ遷移し乱流化する。その物理的な機構を対流/絶対不安定性を一般化した受動的/能動的不安定性の考え方によって説明する。また、その機構は1次元モデル方程式を用いて再現できることを示す。


本告遊太郎*、後藤晋 (阪大院基)
乱流境界層中の渦の階層

高レイノルズ数の乱流境界層の直接数値シミュレーションを実行し、流れ場を粗視化することで、渦の階層構造を同定した。また、各スケールによる渦伸長の寄与を評価することで、この渦の階層構造の生成機構を明らかにした。


齋藤泉*、後藤俊幸、渡邉威 (名工大工)
乱流中で衝突・合体成長する粒子スペクトルの統計理論

Smoluchowski方程式は衝突・合体によって成長する粒子群の粒径(サイズ)分布の時間発展を記述する方程式である。この方程式に乱流統計理論を応用すること により、平衡状態における粒径分布のスペクトルを予測することができる。本研究では3次元一様等方乱流中の非慣性粒子の衝突・合体を考え、平衡スペクトルのべき指数と無次元定数を解析的に導出するとともに、これら理論予測がDNS(直接数値シミュレーション)の結果と良く一致すること を示す。また、この系では粒子の合体による相互作用の時間スケールが粒子サイズに依存 せず、二次元乱流と同様の特徴を持つことを示す。本研究の意義について、エアロゾル・雨粒の合体成長を論じた先行研究や、近年行われている、粒子の衝突・合体を含むDNSとの関連から説明する.


河村哲也(お茶大理)、桑名杏奈(群馬大 理工)、齋藤麻由美*、菅本晶夫(お茶大理、放送大文京SC)、永田裕作(お茶大理)
非可換空間上の流体力学

南部博士の晩年の仕事に、Area Preserving Diffeomorphismの観点から非圧縮性流体の流体力学とハミルトニアンダイナミクスの類似性を用いた考察がある。 本研究では、南部博士の提案した新しい流体力学の見方をもとに流体の運動方程式をポアソン括弧で書き直し、さらにポアソン括弧をモヤル(Moyal)括弧に置き換える ことで非可換空間上の流体力学を考えた。その結果、非圧縮性流体のナビエ・ストークス方程式に新たな補正項が現れることが分かった。 モヤル括弧の導入は、量子化の手続きに相当する。通常、モヤル積は正準共役量の量子化として用いられるが、流体力学に適用した場合にオペレーターとなるのは位置座 標 x と y である。 今回得られた補正項を含む運動方程式は、量子力学の不確定性関係との類推から「ある最小サイズ」を持った流体の流れと考えることができるが、我々はこれを粉粒体の モデルに応用出来るのではないかと期待している。講演では幾つかの数値解析の結果も含めて発表を行う。


佐野雅己(東大理)
層流・乱流遷移−非平衡相転移としての乱流遷移− [招待講演]

層流がいつ,どのようにして乱流に遷移するのかは,多くの物理学者や流体研究者を悩ませてきた難問である.この難問に対して最近,統計物理学から新たなメスが入れられている. パイプ流やクエット流などのシア流では,層流状態が線形安定でありながら,有限の擾乱により理論よりも遥かに低いレイノルズ数で乱流化し,時空間欠的な乱れが出現する. この層流乱流転移が有向パーコレーション(DP)と呼ばれる臨界現象である可能性が指摘され,実験やシミュレーションが盛んに行われている.この講演では、DP転移との類似性の説明から始め、最近我々が行ったチャネル流の実験結果とその考察、パイプ流やテイラー・クエット流などの実験との比較などについて述べる。


笹本智弘(東工大理)
1次元非平衡多体系におけるKPZ揺らぎ [招待講演]

非線形なバネでつながれた振動子系であるFPU鎖を代表例とする非線形1次元多体ハミルトン系は、 一般に非可積分系であるためその長時間における性質を調べることは今でも難しいが、数年前、 1次元非線形ゆらぐ流体力学[1]による記述に基づいて、あるモードの揺らぎや相関がKPZ普遍 クラスにおける分布関数や相関関数で表されるというconjectureが提案された。
KPZ普遍クラスは, 元々成長する界面の高さの揺らぎの普遍性を記述するものとして導入されたものであり、 以前から1成分非平衡系の揺らぎの記述に広く適用されていたが、この予想は、KPZ普遍クラスが1次元ハミル トニアン系を含め保存量が複数ある系に対しても有効であることを示唆する新奇なものであった。
予想はその後多くの数値シミュレーションで検証され、種々の一般化も提案されたが、ミクロ系から の理論的な検証はこれまで行われていなかった。非線形1次元多体ハミルトン系に対しては、上記のように その取り扱いが難しいことから検証は困難を極めると思われる。一方で1次元非線形ゆらぐ流体力学は 保存量が複数ある確率過程モデルに対しても定式化可能であり、こちらの方が検証が比較的容易であると 考えられるが、それもこれまで実現されていなかった。
最近我々はAHRモデルと呼ばれる2成分多体確率過程モデルに対する厳密解を構成し、そのカレントの揺 らぎにKPZ普遍分布が現れることを示す事に成功した[2]。これは1次元非線形ゆらぐ流体力学の予想をミ クロなモデルから検証した最初の例となっている。
講演では, 標準的な1成分KPZ普遍クラスにおける分布関数や相関関数に関する基礎的な事柄について 紹介した後, FPU鎖を含めた多成分系に対する1次元非線形ゆらぐ流体力学[1]について説明し、 さらにconjectureの2成分非対称排他過程モデルにおける検証[2]について解説する。

References:
[1]H. Spohn, Nonlinear Fluctuating Hydrodynamics for Anharmonic Chains, J.Stat. Phys. 154 (2014) 1191.
[2]Z. Chen, J. de Gier, I. Hiki, T. Sasamoto, Exact confirmation of 1D nonlinear fluctuating hydrodynamics for a two-species exclusion process, arXiv:1803.06829, to appear in Phys. Rev. Lett.


樽家篤史(京大 基礎物理学研究所)
宇宙のゆらぎ:大規模構造の形成と非線形進化 [招待講演]

宇宙には大規模構造と呼ばれるきわめて大きなスケールにわたる質量分布の空間非一様性が存在している。この大規模構造は、宇宙が若かりし頃から宇 宙膨張と重力の影響を色濃く受けて形成・進化してきたと考えられ、宇宙の成り立ちを探る宇宙論における重要な観測ターゲットとなっている。特に昨今、大規模な観測 を通して高精度の統計データが得られるようになり、宇宙論への応用が進むとともに大規模構造の理論的記述をめぐって研究が活発化している。本講演では、観測の現状 を踏まえつつ、非線形・非平衡系としてみての大規模構造の性質について、最近の研究を交えながら紹介する。


楊静遠*、後藤俊幸、渡邊威(名工大工)、三浦英昭(核融合研)
乱流によって移流される受動ベクトルの統計的な性質

DNS(直接数値計算)を用いて,乱流によって移流される受動的な非圧縮ベクトルのシミュレーションをしました。速度場及び受動ベクトル場のエネルギスペクトルと三次構造関数を評価し、受動ベクトルのエネルギスペクトルは運動エネルギに比べてより高波数にまで輸送されることが見出されました。渦度ベクトルと受動ベクトルの回転の時間発展式を比較して、受動ベクトルのエンストロフィー生成項はストレッチ項以外に、もう一つの項が存在します。数値計算を通して,新しい項が受動ベクトルのエネルギ輸送にどのような影響を及ぼすのが調べました。まだ,可視化データによって,速度場と受動ベクトル場の空間構造が大きく異なることが分かりました。


安田達哉*(名工大院工),John Christos Vassilicos (ICL)
乱流中のエネルギーカスケードの時空間欠性とその物理

一切の統計近似・仮定を用いず導出された二次速度構造関数の発展方程式(Hill J. Fluid Mech. (2002), 468 317-326)を活用し,時間的に変化する強制外力により駆動される周期箱乱流中のエネルギーカスケードを調査した.乱流場の局所・瞬時の情報を用いた統計解析により,離れた二点で定義される局所加速度ベクトル差・圧力勾配ベクトル差と速度ベクトル差のなす角度がスケール間のエネルギー伝達事象と密接に関係することが明らかになった.この結果は,統計的定常性・一様性を課すと確認されないことを付記する.


横山直人(同大エネ変/関大システム理工)
成層乱流における異種乱流の共存 [招待講演]

回転乱流やMHD乱流など非等方性を持つ多くの流体乱流系が広帯域のエネルギースペクトルをもつとき、 大規模構造・波動・渦が共存することが知られている。 波動間のエネルギー輸送は弱乱流理論によって、 渦間のエネルギー輸送はKolmogorov理論に統計的に記述される。 本講演では、 水平方向に一様な鉛直剪断流、内部重力波の弱乱流、渦のKolmogorov乱流が共存する成層乱流において、 各乱流内のエネルギー輸送機構を紹介する。 また、それぞれの乱流時の時間スケールに着目し、 各乱流の遷移スケールにおける 異種乱流間のエネルギー輸送機構と非等方乱流における普遍性を議論する。