乱流基礎相似則の再検討

京大 数理解析研究所 RIMS共同研究(公開型)

開催日程 2019年7月24日(水)--26日(金)

開催場所 京大 数理解析研究所 111号室 (交通案内)

研究代表者 藤 定義 (京都大学 理学研究科)


プログラム

(PDF)


7月24日 水曜日

13:25--13:30 研究代表者 挨拶
13:30--14:00 本木慎吾*, 川野晃季, 松森圭祐, 河原源太, 清水雅樹(阪大基礎工)
14:00--14:30 蛭田佳樹*、藤定義 (京大院理)
14:30--15:00 石川 寿雄*, 竹広 真一, 山田道夫 (京大数研)

15:30--16:00 大西領*(海洋研究開発機構)、後藤浩二(NEC)、高橋桂子(海洋研究開発機構)、今田正俊(豊田理化学研究所/早稲田大学)
16:00--17:00 後藤晋(阪大基礎工)

7月25日 木曜日

9:00--9:30 荒木圭典(岡山理大)
9:30--10:00 三浦英昭 (核融合研)
10:00--10:30 半場藤弘 (東大生研)

11:00--12:00 辻 義之(名大工)

13:30--14:30 金田行雄 (名大多元数理)
14:30--15:00 岩山隆寛* (福大理)、渡邊威 (名工大院工)

15:30--16:30 服部裕司 (東北大流体研)
16:30--17:00 毛利英明*、守永武史、萩野谷成徳 (気象研)

17:30-- 懇親会

7月26日 金曜日

9:30--10:00 出口健悟 (Monash大)
10:00--10:30 松浦一雄 (愛媛大大学院)

11:00--12:00 後藤俊幸(名工大)

13:30--14:00 岡村 誠(九大応力研)
14:00--14:30 齋藤泉*、渡邊威、後藤俊幸、安田達哉 (名工大院工)
14:30--15:00 岸達郎*,松本剛,藤定義 (京大院理)

15:30--16:00 稲垣和寛*(東大生研)
16:00--16:30 安田達哉*,後藤俊幸,渡邊威,齋藤泉 (名工大院工)

講演要旨


荒木圭典(岡山理大)
一般化渦度定式化を用いた非圧縮性HMHDの定常解の安定性解析

非圧縮性の完全流体、非散逸MHD、非散逸 Hall MHD方程式系には 一般化速度/運動量/渦度の三つ組み構造があり、一般化渦度を 一般化速度から生成する演算子はラベルの貼り替え対称性と関連 していることが分かっている。本研究ではこの定式化で整理する と、Hamilton系での安定性の解析が容易に行えることを示す。


出口健悟(Monash大)
Nonlinear coherent structures in a self-similar round jet

The Schlichting jet is known as a self-similar laminar round jet profile realised at sufficiently large Reynolds numbers and downstream distance. Here we shall consider nonlinear wave-like coherent structures on top of the Schlichting jet. We are based at the dynamical systems theory picture of turbulence, where a computation of invariant solutions of relatively simple form (e.g. travelling waves, time periodic orbits) is usually the first step. Till date, numerous solutions have been found in parallel shear flows. However, the Schlichting jet is inherently a non-parallel problem, where the development of the flow in the spatial scale must be considered as well as the time development. The spatial development of the base flow is in the boundary layer scale longer than the typical wave scale. We shall show that the multiple scales in the flow can be incorporated by combining the Newton-Raphson based solver developed in the parallel flow problems with the spatial marching technique used in the boundary layer studies. For some types of coherent structures, the method can be validated by the large Reynolds number matched asymptotic expansion theory.


後藤晋(阪大基礎工)
乱流中のエネルギーカスケードと局所平衡仮説の破れ [招待講演]

コルモゴロフの相似仮説はしばしばエネルギーカスケード描像で説明される。 近年の大規模な直接数値シミュレーション(DNS)により、様々な系における エネルギーカスケードの実態が明らかになりつつある。得られた知見は古典的 なカスケードの描像とは矛盾しない。ところが一方で、エネルギーカスケード 描像はコルモゴロフの局所平衡仮説とは相容れない。たとえば、エネルギーカ スケードはエネルギー流束と散逸との不釣り合いをうむために、ある時刻のエネ ルギー散逸率を同時刻の大規模構造の特徴量で表すことはできない。本講演で は近年の研究で得られたこれらの知見についてまとめたのち、今後の研究の展 望についても述べる。


後藤俊幸(名工大)
乱流とスカラー混合現象: 極限状態への漸近 [招待講演]

21世紀に入ってほぼ20年が経過しようとしている。 理論、実験、数値シミュレーションによる研究それぞれに進展があったが、 乱流現象の解明は未だ道半ばである。乱流研究の中心的テーマの一つは、揺ら ぎのスペクトルはもちろん、 高次統計量のべき法則、確率密度関数がレイノルズ数の増大やスケールの減少と共に どのように変化していくのかにあり、レイノルズ数やペクレ数が無限大での乱 流揺らぎの 統計法則を明らかにすることに大きな関心が寄せられている。 理論においては多くの場合、レイノルズ数やペクレ数が無限大の極限状態を想 定しており、 種々の現象論的モデルや、Kraichnanモデルなどの解析可能なモデルとその拡 張が進展してきた。 実験においては新たな計測技術の開発と設備の大型化、数値シミュレーション においては スパコンの飛躍的発展により、高レイノルズ数におけるオイラー的・ラグラン ジュ的統計量が 解析されてきた。この講演では、漸近的極限状態における乱流スカラー輸送現 象の研究の進展と 光と影を振り返り、歩むべき方向について考えてみたい。


半場藤弘 (東大生研)
チャネル乱流のエネルギー逆カスケードに伴う渦構造

チャネル乱流の直接数値計算のデータを用いてスケール空間のエネルギー輸送を調べると、スパン方向の速度成分のエネルギーについて壁面近くで逆カスケードが見られる。この逆カスケードに着目し、サブグリッドスケールのエネルギーの生成項に基づいた条件付き平均を行い、壁近くの渦構造を抽出する。そして縦渦構造による乱流の維持機構との関連を考察する。


服部裕司 (東北大流体研)
機械学習の乱流研究への応用可能性 [招待講演]

近年の計算機とAI技術の発展に伴い、様々な分野でAIの応用研究がさかんに行われて いる。流体力学研究、特に乱流研究への応用もここ2,3年で急増している。新たな潮 流として期待される一方で、懐疑的な見方も少なくない。機械学習を中心としたAIに よる乱流研究の現状を整理するために、われわれが行っている機械学習による乱流モ デルの開発とその評価を中心に紹介し、今後の機械学習の乱流研究への応用可能性に ついて議論する。


蛭田佳樹*、藤定義 (京大院理)
二次元周期境界熱対流系における局在乱流

二次元周期境界領域で定義されたブシネスク近似された熱対流系を考える。 定常な流量を与えることで、自明解は安定化し空間局在した非線形構造は長時間維持するようになる。 講演では空間構造のパラメータ依存性や亜臨界遷移の側面について報告する。


稲垣和寛 (東大生研)
回転系非一様乱流における平均速度生成現象のスペクトル解析

近年,ヘリシティ(速度-渦度相関)の非一様な分布を伴った回転乱流において,回転軸方向の平均速度が生成される現象が確認されている.このような平均速度生成現象は,乱流モデルの基礎概念としても知られる渦粘性とは異なる物理効果に由来している.本研究では平均速度生成現象に関して波数空間での相互作用も考慮した解析を行い,エネルギーカスケード描像との対応関係を探る.


石川 寿雄*, 竹広 真一, 山田道夫 (京大数研)
混和性を持つ二層系の熱対流パターン

柳澤・栗田(1999)は, 異なる濃度のグリセリン溶液を 鉛直方向に二層に安定成層させ, 下面が高温となるよう 上下面に固定温度差を与えた系を, 室内実験によって 調べた. その結果, 柳澤らは, 対流は上下層の流れの 関係によって「力学的結合状態」と「熱的結合状態」 に大別され, 時間とともに上下層の平均密度差が減少するに 連れて, これらの結合状態が変動することを見出した.   本研究では, この系を念頭に, 濃度的には安定成層, 温度的には不安定成層をなす混和性を持つ二層の熱対流 問題について, 2つの結合状態の関係を議論する. 二層 を成す二重拡散系に対し非線形対流のモデル化を用いた 解析を行い, 二層間の密度遷移層の幅によって, 現れる 対流の結合状態および最終的に落ち着く非線形周期解が 変化することを見出した. これらの結果を, 直接数値計算 および線形安定性解析の結果と比較し議論する.


岩山隆寛*(福大理)、渡邊威 (名工大院工)
β平面上2層準地衡流系におけるNastrom-Gageスペクトルの形成メカニズムに関する数値実験的検証

Tung and Olrando (2003) (以下,TO03と略記)によって提唱さ れた準地衡流系におけるNastrom-Gageスペクトル(以下,NGスペ クトルと略記)の形成メカニズムを数値実験的に検証した.
f平面上2層準地衡流モデルを用いたNGスペクトルの形成メカニズム に関する研究は,2017年の本研究集会において発表し,TO03によって 提唱されたメカニズムは働かず, NGスペクトルも形成されないこと を示した.今回はβ平面上2層準地衡流モデルを用いて同様の研究を 行った.系の力学を支配する2つのパラメターの広い範囲内に渡って 数値実験を行ったがTO03メカニズムは働かず,NGスペクトルも形成 されなかった.これらの結果から準地衡流系ではNGスペクトルは形 成されないことが結論付けられる.


金田行雄 (名大多元数理)
乱流基礎相似則 – Reynolds 数が有限であることの影響 – [招待講演]

Kolmogorovの理論(K41)をはじめとする多くの乱流の統計理論では、Reynolds 数(Re)が十分高いとき、十分局所的な範囲で、普遍的な法則性とくにスケーリング則が成り立つと仮定されDNSや実験との比較がなされている。 しかし、現実のDNSや実験ではReは、如何に高くても、無限大ではありえず有限でしかない。「十分高い」の定量的意味は何か?これまでのDNSや実験のReは理論の検証に足るほど十分高かったのか?などの疑問が残る。
本講演では、これらの疑問に関する一見相反する二つの方向からの理解の試みについて紹介する。一つは、なるべく大きなReを実現しようという試みである。具体的には周期境界条件下の乱流DNS(いわゆるBox乱流)である。Box乱流は実験や観測よりも、理論の想定する統計的等方性を実現しやすい利点がある。 もう一つは現実ではReが有限でしかないことを認めてしまい、その有限性の影響を評価し取り入れようという試みである。具体的には、熱統計力学で知られた線形応答理論の考えの乱流境界層中の慣性層への適用、また乱流中の粒子拡散への適用について紹介する。


岸達郎*,松本剛,藤定義 (京大院理)
2次元エネルギー逆カスケード乱流の相対拡散における粒子間相対速度の統計

乱流相対拡散については経験則としてRichardson則($\langle r^2 \rangle \propto t^3$) が知られているが,実験・数値計算では観測されないという問題点や,その物理的背景は 明らかではないという点で,今もなお未解決の問題である.これに対し,我々は,粒子間の 相対速度に注目し,Kolmogorovの現象論から導かれるスケーリング則とは異なるスケーリング指数を 発見した.この理由を,相対速度の条件付き分布関数から説明する.また,これに関連して, 相対速度の2時刻相関関数についても議論する.


松浦一雄 (愛媛大大学院)
層流—乱流遷移境界層渦のデータマイニング

境界層の層流—乱流遷移では,形や挙動の異なる様々な渦が現れる。 本研究では,平板境界層の直接シミュレーションを行い,そのデータに 含まれる渦を低自由度化・クラスタ分類し,個々の渦クラスタ挙動を 定量化するデータマイニングについて発表する。


三浦英昭 (核融合研)
拡張MHD乱流の空間構造

MHD、MHDモデルに2流体効果を取り入れたHall MHDモデル、更に有限ラーマ— 効果を入れた拡張MHDモデルの3つのモデルについて、一様等方減衰性乱流シミュ レーションを実施し、乱流の空間構造に対するこれら拡張効果の影響について 報告する。


本木慎吾*, 川野晃季, 松森圭祐, 河原源太, 清水雅樹(阪大基礎工)
熱対流乱流における究極スケーリング

浮力により駆動される熱対流乱流において,ヌセルト数のレイリー数に 対する1/2乗のスケーリングは究極スケーリング(ultimate scaling) として知られ,このとき,乱流熱流束(および対応するスカラー散逸率)が 温度拡散係数および動粘性係数に依らない究極の熱対流乱流状態となる. 通常の水平平板間熱対流においては極めて高レイリー数においても 未だ観測されていないこのスケーリング則が,3方向に周期的な領域において 現れること,さらには多孔質体壁面を模した滑りなし貫通壁面間における熱対流 においても達成することを示し,その乱流構造と統計性質を議論する.


毛利英明*、守永武史、萩野谷成徳 (気象研)
壁乱流の1/kスペクトル則は実在するのだろうか

境界層乱流など壁に接する乱流について従来から提案されている1/kスペクトル則が実在するかどうか調べるため、気象研究所の露場において超音波風速計を用いた風速変動の長期間観測を実施した。この観測から得られた乱流のエネルギースペクトルは1/k則とは整合せず、むしろattached eddy仮説の予想と整合するものであった。


岡村 誠(九大応力研)
コルモゴロフのエネルギースペクトルはレイノルズ数無限大の極限で存在するのか?

未定パラメーターを含まない,有限レイノルズ数のクロージャーモデルを使って,エネルギースペクトルのレイノルズ数依存性を調べた.その結果,レイノルズ数無限大の極限でもコルモゴロフのエネルギースペクトルからのずれのあることがわかった.


大西領(海洋研究開発機構)*、後藤浩二(NEC)、高橋桂子(海洋研究開発機構)、今田正俊(豊田理化学研究所/早稲田大学)
扁平3次元領域における乱流の自己相似性の破れと大スケール間欠性

扁平3次元領域中では、慣性領域で⽣じる2次元から3次元乱流へのクロスオーバースケールで顕著な間⽋性が⽣じ、 これが⼤規模な構造形成・⾃⼰組織化を⽣み出すことを大規模直接数値計算によって明らかにした。 さらに、扁平な地球大気に対しても同様のことを高解像度全球大気計算により確認した。 この発⾒は地球⼤気に見られる極端現象の理解の深化に繋がると期待される。 REFERECE: Takahashi et al. PRF, 3, 124607(2018)


齋藤泉*、渡邊威、後藤俊幸、安田達哉 (名工大院工)
乱流と粒子群の相互作用を特徴付ける新しい時間スケール

摩擦抵抗を通じた乱流と微小粒子群の相互作用に関する新たな 時間パラメータを導入する。この時間パラメータは、雲乱流分野 において乱流・雲粒子間の相互作用を特徴付ける重要な時間パラメータ 「相変化の緩和時間」(phase relaxation time)と対応しており、 この類似性に基づいて「流れの緩和時間」(flow relaxation time) と名付けられる。流れの緩和時間を用いることで、微小粒子群による 乱流変調を定量的に予測できることを、統計理論による解析および 直接数値シミュレーションによって明らかにする。


辻 義之(名大工)
壁乱流の平均速度分布と乱れの普遍性の再考 [招待講演]

(円管、二平板チャネル、境界層)における類似と相違、その普遍性に ついて、近年の成果(実験、数値計算)を基に報告する。また、 速度変動に関する統計量分布の普遍性について現象論的な解釈の 可能性を考える。


安田達哉*,後藤俊幸,渡邊威,齋藤泉 (名工大院工)
一様平均スカラー勾配下の乱流におけるパッシブスカラー変動の非等方性

一様平均スカラー勾配下のパッシブスカラー乱流の直接数値計算を 多数の異なるレイノルズ数・シュミット数に対して実施し,スカラー揺らぎの 非等方性のパラメータ依存性を徹底的に調査した. ペクレ数がスカラー揺らぎの非等方性の度合いを予測する上で 重要なパラメータとなりうることを議論したい.