京大 数理解析研究所 共同研究 (公開型)

「乱流の普遍性:空間次元依存性」

代表 藤定義


プログラム

(Zoom による完全オンライン研究会)

3/8 (月)

13:10--13:30   代表者挨拶
13:30--14:15   岸達郎 (京大理)
2次元エネルギー逆カスケード乱流での2時刻2粒子ラグランジュ速度相関関数
14:15--15:00   稲垣和寛 (東大生産研)
Lagrange的くりこみ近似を用いた鏡映非対称乱流における相似則の解析
15:00--15:45   沖野真也 (京大工)
塩分成層流体における減衰乱流の直接数値計算と室内実験
  (休憩)
16:00--16:45   高岡正憲 (同志社大工)
2次元および3次元の非等方乱流における保存量の波数空間局所流れ
16:45--17:30   大木谷耕司 (Sheffield大数学)
Navier-Stokes方程式の自己相似解とその応用

3/9 (火)

13:30--14:15    蛭田佳樹 (明治大MIMS)
任意のレイノルズ数で自明解が線形安定な流れ系の構成法
14:15--15:00    吉田恭 (筑波大数物)
量子流体乱流のスペクトル
15:00--15:45    出口健悟 (Monash大数学)
Eigenvalue bounds for compressible stratified magneto-shear flows varying in two transverse directions
  (休憩)
16:00--16:45    木村芳文 (名大多元数理)
渦の繋ぎかえとNavier-Stokes方程式の特異点
16:45--17:30    中野裕義 (京大理)
一様せん断流下にある二次元系での連続対称性の破れと長距離秩序

アブストラクト (講演順)

3/8 (月)

岸達郎 (京大理)
2次元エネルギー逆カスケード乱流での2時刻2粒子ラグランジュ速度相関関数

近年の実験・数値計算によると,乱流中における2粒子相対距離の2次モーメントは, 長時間初期相対距離の影響を受け続ける.一方で,これは古典論では説明できない. この問題に対して,本講演では,2時刻2粒子ラグランジュ速度相関関数のスケーリング則を, 2次元エネルギー逆カスケード乱流の数値計算から考察することで, 初期相対距離依存性を考慮した,実験データに則した,乱流相対拡散の新しいスケーリング則を提案する.


稲垣和寛 (東大生産研)
Lagrange的くりこみ近似を用いた鏡映非対称乱流における相似則の解析

Kolmogorovの局所等方乱流の仮説は乱流の統計的な相似則に関する基礎となっている.本研究では,鏡映対称性の破れの効果が乱流の相似則におよぼす効果について解析する.鏡映非対称な乱流場ではエネルギーの散逸率のみならず,ヘリシティの散逸率も相似則に寄与しうる.乱流統計理論としてLagrange的繰り込み近似(LRA)を用い,エネルギーやヘリシティ―のフラックス,応答関数方程式の相似性から相似則を導いた結果を示す.


沖野真也 (京大工)
塩分成層流体における減衰乱流の直接数値計算と室内実験

塩分に相当する、シュミット数が700の密度成層流体中の減衰乱流について、 大規模な直接数値計算によって調べた。 浮力の効果がコルモゴロフスケール以下にまで及ぶと、 塩分撹乱のパワースペクトルは、よく知られたBatchelor (1959)の理論に従わなくなることを見出した。 より最近取り組んでいる、塩分成層乱流の室内実験の結果についても併せて報告する。


高岡正憲 (同志社大工)
2次元および3次元の非等方乱流における保存量の波数空間局所流れ

2次元乱流では渦伸張が無いのでエネルギーのみならずエンストロフィも保存する. このため,3次元乱流ではエネルギーが順カスケードして微細構造が現れるのに対し, 2次元乱流では逆カスケードして大規模構造が現れる. 更に$\beta$平面乱流ではゾノストロフィと帯状流形成の関係が注目されている. エネルギーの流れは,一様等方乱流では詳しく調べられているが, 非等方乱流ではその表現すら確立されていない。 これらの保存量の波数空間での流れを定量化する一つの方法を提案し 適用した結果を報告する.


大木谷耕司 (Sheffield大数学)
Navier-Stokes方程式の自己相似解とその応用

3次元Navier-Stokes方程式の減衰終期のを特徴づける(前方)自己相似解を考える。 そのような解の存在は、種々の関数クラスで知られていて、関数形は熱方程式の解に近いことも分かっている。 よって従属変数をうまく選ぶと、自己相似プロファイルは、第1近似である熱核の擬恒等変換として書ける。 ここでは、摂動的な取り扱いにより、逐次近似解を具体的に構成する定式化を行ない、(求積法を含む形での) 第2近似の表現公式を与える。熱核への付加項、即ち、非線形項の大きさ$N$を数値的に見積もり、それが $N \sim 0.006$ と非常に小さいことを示す。この結果を、2次元Navier-Stokes方程式の場合の$N=0$ や、 Burgers方程式の場合の$N \sim 0.2$と対比する。時間が許せば、自己相似解を研究する動機についても触れる。


3/9 (火)

蛭田佳樹 (明治大MIMS)
任意のレイノルズ数で自明解が線形安定な流れ系の構成法

円管流れを代表とする重要な壁境界せん断流れの多くは、大きな駆動力に対しても自明解(層流解)が線形安定である。それ故に、流れの乱流化は自明解が線形安定性を保ったまま起こる。 講演では、広いクラスの駆動力に対し線形安定な自明解を持つ周期境界流れ系を構成する方法を説明する。例として、コルモゴロフ流れでの線形不安定性の消失や数値計算との比較を扱う予定である。


吉田恭 (筑波大数物)
量子流体乱流のスペクトル

Bose-Einstein凝縮体や液体ヘリウムの超流動成分など量子流体の運動は適切な近似のもとでGross-Pitaevskii(GP)方程式で記述される。GP方程式に従う乱流のスペクトルについて完結近似理論の結果、数値シミュレーションの結果を紹介する。理論的には高波数領域で弱波動乱流的、低波数領域で強乱流的であることが期待され、それを支持する数値シミュレーション結果が得られている。


出口健悟 (Monash大数学)
Eigenvalue bounds for compressible stratified magneto-shear flows varying in two transverse directions

Three eigenvalue bounds are derived for compressible stratified magnetohydrodynamic shear flows in which the base velocity, density, and magnetic field vary in two directions. The first bound can be obtained by combining the Howard semicircle theorem with the energy principle of the Lagrangian displacement. Remarkably, no special conditions are needed to use this bound, and for some cases, we can establish the stability of the flow. The second and third bounds come out from a generalisation of the Miles-Howard theory and have some similarity to the semi-ellipse theorem by Kochar & Jain (1979) and the bound found by Cally (1983), respectively. An important byproduct of this investigation is that the Miles-Howard stability condition holds only when there is no applied magnetic field and, in addition, the directions of the shear and the stratification are aligned everywhere.


木村芳文 (名大多元数理)
渦の繋ぎかえとNavier-Stokes方程式の特異点

反平行の細い渦管の繋ぎかえの研究はNavier-Stokes方程式あるいはEuler方程式の特異性の問題とからんで 長い歴史がある。本講演では渦糸のBiot-Savartモデルのシミュレーションの結果から始めて、渦管の 繋ぎかえを記述する力学系の話に進み、Navier-Stokes方程式のDNSの途中経過についてお話する予定である。


中野裕義 (京大理)
一様せん断流下にある二次元系での連続対称性の破れと長距離秩序

マーミン・ワグナーの定理は「熱平衡状態にある二次元短距離相互作用系では、有限温度で連続対称性が自発的に破れることが禁止されており、長距離秩序を持つ相が存 在しない」ということを示す。 この定理は連続スピン系や固体結晶のような幅広い平衡系に対して適用できることが知られている。 一方で、Vicsekモデルのようなアクティブマターを記述するモデルがマーミン・ワグナーの定理の適用範囲外にあることは90年代から知られており、 最近、詳細釣り合い条件の破れ、すなわち系が熱平衡状態にないことがマーミン・ワグナーの定理を破る重要な要素であることが指摘された[1]。 この研究に動機付けられ、講演者は最近、一様せん断流という流れによって外部駆動される二次元非平衡系に関する研究を行ったので、その成果について話す[2]。 具体的には、有限サイズスケーリングを用いた数値解析によって、一様せん断流という外部駆動非平衡系であっても連続対称性は自発的に破れることを明らかとした。 無秩序相と長距離秩序相の間の相転移は二次転移であり、せん断率が大きい極限で臨界指数は平均場的である。 さらに、我々の数値解析はこの現象が流れが小さい極限であっても起こることを示唆する。

[1] H. Tasaki, Phys. Rev. Lett. 125, 220601 (2020)
[2] H. Nakano, Y. Minami, and S.-i. Sasa, arXiv:2011.06256 (2020)


松本剛 takeshi あっと kyoryu.scphys.kyoto-u.ac.jp