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京大 数理解析研究所 RIMS共同研究 (公開型)

「乱流の予測可能性と可制御性」

研究会代表者: 松本剛、藤定義

形式:対面と Zoom によるハイブリッド開催

会場:京大 数理解析研究所 420号室


プログラム

7月20日 (水)

13:15--13:45    齋藤泉*(名工大)、渡邊威(名工大)、後藤俊幸(名工大)
粒子法を用いた高シュミット数スカラー乱流の直接数値シミュレーション
(対面)
14:00--14:30    吉田恭(筑波大数理物質系)
波数空間における定流束状態を用いた乱流のアンサンブルモデル
(オンライン)
14:45--15:15    毛利英明*(気象研)、伊藤純至(東北大理)
境界層乱流における運動量フラックスの変動法則
(対面)

7月21日 (木)

10:00--10:30    根本孝裕* (京大情報)、Alexandros Alexakis (LPENS)
パイプ内局所乱流消失時間に関する統計的性質
(対面)
10:45--11:45    阿部浩幸*,南部太介,溝渕泰寛 (JAXA)
壁乱流のレイノルズ数効果に関するDNSとモデリング
(オンライン)
13:15--14:15    佐藤正樹 (東京大学大気海洋研究所)
全球非静力学モデルによる高解像気象・気候シミュレーション
(オンライン)
14:45--15:15    荒木圭典 (岡山理大 情報理工)
ヘリシティから見たHall MHD/MHDの「渦度」
(対面)
15:30--16:00    岩山隆寛*(福大理),渡邊威(名工大工)
一般化された2次元流体系における2重点渦列の線形安定性
(対面)

7月22日 (金)

10:30--11:00    大木谷耕司 (京大数理研)
一般化された非圧縮流体方程式
(対面)
11:15--11:45    三浦英昭*(核融合研)、後藤俊幸(名工大)
高磁気プラントル数Hall MHD乱流の統計的性質
(オンライン)
13:15--14:15    横山雅之 (核融合研)
核融合プラズマの統計数理モデリングとその制御活用の可能性
(対面)
14:45--15:15    稲垣和寛*(慶大自然セ)、小林宏充(慶大日吉物理・自然セ)
エネルギー輸送だけでは説明できないサブグリッドスケール応力の物理的役割について
(対面)
15:30--16:00    Rory Cerbus (理研)
遷移するパイプ流の流量変動
(対面)

アブストラクト

阿部浩幸*,南部太介,溝渕泰寛 (JAXA)
壁乱流のレイノルズ数効果に関するDNSとモデリング [招待講演]

我々は,壁乱流のレイノルズ数効果に主眼を置き,各種流れ場のDNSを実行してきた.本講演では,2次元乱流場の平行平板間,乱流境界層,剥離・再付着を伴う乱流境界層,3次元乱流場の捩れ乱流境界層,コーナーフローなどのDNSの解析結果ついて紹介する.加えて,DNSデータを用いて開発を進めているAMM-QCRcornerモデル(2次非線形$k$-$\varepsilon$モデル)について,コーナーフローにおける2次流れや航空機の翼と胴体のコーナ剥離の予測について紹介する.


荒木圭典 (岡山理大 情報理工)
ヘリシティから見たHall MHD/MHDの「渦度」

非散逸非圧縮性Hall MHD方程式は2個の体積保存微分同相群の直積群、半直積群上の作用の変分の極値曲線として2通りの定式化ができるが、この両者をつなぐ準同型がある。これを利用して2個のヘリシティ(磁気、ハイブリッド)の保存則から、MHD極限での「渦度」の定義を試みた。


Rory Cerbus (理研)
遷移するパイプ流の流量変動

遷移する流れを実験で調べる際にはレイノルズ数Reをなるべく一定する大切さは常識である。しかし一般の産業環境ではReではなく圧力などが制御パラメータの役割を果たす。この場合はReがパイプ内の摩擦に依存して、遷移領域ではReが大きく揺らぐ現象も見られる。当発表ではその揺らぎを実験で調べて、そして解析するためにはプラントルが昔推定した説を利用する[1]。

[1] Cerbus, Rory T. "Prandtl-Tietjens intermittency in transitional pipe flows." Physical Review Fluids 7.1 (2022): L011901.


稲垣和寛(慶大自然セ),小林宏充(慶大日吉物理・自然セ)
エネルギー輸送だけでは説明できないサブグリッドスケール応力の物理的役割について

ラージ・エディ・シミュレーション(LES)では,渦粘性ないし数値粘性による解像スケールからサブグリッドスケール(SGS)へのエネルギー輸送が重要な 量として考えられている.しかしながら,非等方性を伴うせん断乱流などでは必ずしもエネルギー輸送量だけがモデル化すべき量ではないと考えられ る.本研究ではチャネル乱流の直接数値計算を用いて,SGS応力をエネルギー輸送を担う渦粘性項とエネルギー輸送に寄与しない項とに分解し,それら が解像スケールのReynolds応力の収支におよぼす効果を解析する.本研究を通して,従来より粗い格子を用いたLESの実現のために,SGS応力に関して エネルギー輸送以外に必要な物理効果を提示したい.


岩山隆寛*(福大理),渡邊威(名工大工)
一般化された2次元流体系における2重点渦列の線形安定性

移流されるスカラー場と流れ関数とが分数冪ラプラシアンで関係づけられる,一般化された2次元流体系(一般化されたEuler系とも呼ばれる系)の点渦モデルにおいて,2重点渦列の線形安定性問題,いわゆる,カルマン渦列の線形安定性問題,を考察した.系に含まれるパラメター$\alpha$の値によって,渦列が安定な渦列間隔比は変化し,$\alpha$の値が0.61よりも小さいときには,渦列が安定な渦列間隔比は有限の幅を持つ.この系の流れ場は,渦度を持つことが特徴的であり,渦度と変形場が渦列の安定性に与える影響も考察する.


三浦英昭*(核融合研)、後藤俊幸(名工大)
高磁気プラントル数Hall MHD乱流の統計的性質

磁気プラントル数が1より大きい一様等方Hall MHD乱流の統計的性質について報告する。これまでの我々の研究から、このようなHall MHD乱流の速度場のスペクトルには、それ以前には報告されていなかった新しいべき則の領域が形成される可能性があることがわかっている。この講演では、このようなエネルギースペクトルの形成について、大型シミュレーションによる検証を進めるとともに、その統計的な性質についても合わせて報告する。特に、Hall 効果が顕著となるサブイオンスケールと、それよりも低波数領域のMHDスケールにおける性質の違いについて注目し、解析を行う。


毛利英明*(気象研)、伊藤純至(東北大理)
境界層乱流における運動量フラックスの変動法則

境界層乱流における運動量フラックスの平均値は所謂「壁法則」に従う。この法則は気象モデルを含め数値計算において活用されてきた。しかし運動量フラックスの瞬時値は大きな変動を示すことが知られている。本講演では、こうした運動量フラックスの瞬時値の診断式を理論的に導出し、気象研風洞で得た実験データや気象研露場で得た観測データを用いて検証を行なう。


根本孝裕* (京大情報)、Alexandros Alexakis (LPENS)
パイプ内局所乱流消失時間に関する統計的性質

パイプ内に局所的に生成した乱流は確率的に決まる待ち時間の後に消失するが、この待ち時間の期待値は臨界レイノルズ数($\sim$2040)に近づくにつれて二重指数関数的に増加する。この性質は2011年の臨界レイノルズ数測定にも用いられており[1]、その起源は極値理論にあると言われている[2]。本講演では、ナビエストークス方程式DNSを使ってこの理論の正当性を調べた研究をまず紹介する[3]。 臨界レイノルズ数付近では、待ち時間が二重指数関数的に増大するため、局所乱流の統計的性質の研究には時間がかかる。そこで、局所乱流のトイモデル[4]において、レイノルズ数を操作することにより乱流を制御し、この統計的性質を効率良く調べる試みを次に紹介する[5]。

[1] K. Avila et al. Science 333, 192 (2011).
[2] N. Goldenfeld et al. Phys. Rev. E 81, 035304(R) (2010).
[3] T. Nemoto and A. Alexakis, Journal of Fluid Mechanics 912 (2021).
[4] D. Barkley, Phys. Rev. E 84, 016309 (2011).
[5] T. Nemoto and A. Alexakis, Phys. Rev. E 97, 022207 (2018).


大木谷耕司 (京大数理研)
一般化された非圧縮流体方程式

2次元Burgers方程式とNavier-Stokes方程式を補間する一般化流体方程式を提案する。多次元Burgers 方程式は、ポテンシャル流の仮定の下で熱方程式に帰着できるという意味で可積分である (いわゆる Cole-Hopf 線型化)。他方、Navier-Stokes 方程式は可積分ではないと考えられている。
例えば、2次元流の場合、Navier-Stokes 方程式の移流項の速度勾配を90度回転させることで、 Burgers 方程式と等価な系が得られる。そこで、回転角を連続的に変化させることによって、一般化された非圧縮性流体力学を考える。こうして、可積分系とそうではない系の性質を、連続パラメターによって接続し比較することができる。直接数値計算によって、角度を変化させる時に流れの性質が如何に変わるかを議論する。最も正則性がよろしくない、回転角0の場合が可積分となることに注意する。
また、流れ関数を用いた支配方程式を書き下す事により、3次元流についても同様な一般化を導入できる事に触れる。


齋藤泉*(名工大)、渡邊威(名工大)、後藤俊幸(名工大)
粒子法を用いた高シュミット数スカラー乱流の直接数値シミュレーション

乱流中の微小粒子群の輸送・混合による高シュミット数スカラー乱流のための、ラグランジュ描像に基づく直接数値シミュレーション手法を提案する


佐藤正樹 (東京大学大気海洋研究所)
全球非静力学モデルによる高解像気象・気候シミュレーション [招待講演]

従来の気候モデルでは,雲の表現の不確定性により,気候感度の推定に大きな不確実性がある.雲の不確実性の低減のために,kmスケールの高解像度で全球を覆う「全球非静力学モデル」を利用するアプローチが有望である(Satoh et al. 2019).このようなモデルはメソスケールの対流システムを直接シミュレートすることによって雲の構造を再現することで,その結果を人工衛星観測等の観測データとの直接的な比較が可能である.我々の研究グループでは、従来の気候モデルよりはるかに高解像で全球の気象・気候シミュレーションが可能な非静力学正二十面体格子大気モデル(NICAM)を開発し、気候変化に関連する雲プロセスの研究等を進めてきた。NICAMでは,従来の全球気候モデル(GCM)おける気候予測の不確実性の要因である対流パラメタリゼーションを用いず,雲微物理スキームにより雲を精緻に表現することができる.本講演では、気象・気候シミュレーションを目的とした高解像度の全球非静力学モデルにおける雲の検証・不確定性の現状の取り組みについてレビューする。
 NICAMを用いたこれまでの最高解像度シミュレーションは、スーパーコンピュータ「京」を用いた水平サイズ約870 m (Miyamoto et al. 2013) であった。現在、スーパーコンピュータ「富岳」において、メッシュサイズ約220mの全球シミュレーションの実験を計画している。220mメッシュ間隔のシミュレーションは、深い対流雲のための全球ラージ・エディ・シミュレーションとみなすことができ、全球的に深い対流をより詳細に再現できると期待される。NICAMは、対象領域をより細かいメッシュ間隔をもつストレッチNICAMによる領域モデルとしても利用可能である(Roh et al.2020, Noda et al.2021)。首都圏の数値モデルと観測データの連携解析研究であるULTIMATE(ULTra-sIte for Measuring Atmosphere of Tokyo Metropolitan Environment)プロジェクトにおいて、二重偏波ドップラー気象レーダ等の観測データを用いて、ストレッチNICAMで再現される雲を評価し、物理過程スキームの改良を進めている(佐藤2021)。ULTIMATEの結果をもとに改良したNICAMを用いて、全球220mシミュレーションを実施する。

参考文献:
Miyamoto, Y., Y. Kajikawa, R. Yoshida, T. Yamaura, H. Yashiro, and H. Tomita, 2013: Deep moist atmospheric convection in a subkilometer global simulation, Geophys. Res. Lett., 40, 4922-4926. http://dx.doi.org/10.1002/grl.50944.
Noda, A. T., Seiki, T., Roh, W., Satoh, M. and Ohno, T., 2021: Improved representation of low-level mixed-phase clouds in a global cloud-system-resolving simulation. J. Geophys. Res.: Atmosphere, 126, e2021JD035223, https://doi.org/10.1029/2021JD035223.
Roh, W., Satoh, M., Hashino, T., Okamoto, H., Seiki, T., 2020: Evaluations of the thermodynamic phases of clouds in a cloud system-resolving model using CALIPSO and a satellite simulator over the Southern Ocean. J. Atmos. Sci., 77, 3781–3801, https://doi.org/10.1029/2020MS002138.
Satoh, M., Stevens, B., Judt, F., Khairoutdinov, M., Lin, S., Putman, W.M., Düben, P. (2019) Global Cloud-Resolving Models. Current Climate Change Reports, 5, 172-184, doi:10.1007/s40641-019-00131-0.
Satoh, M., 2021: ULTIMATE: ULTra-sIte for Measuring Atmosphere of Tokyo Metropolitan Environment. Journal of The Remote Sensing Society of Japan, 41, 133-139, https://doi.org/10.11440/rssj.41.133 (in Japanese).


横山雅之 (核融合研)
核融合プラズマの統計数理モデリングとその制御活用の可能性 [招待講演]

核融合プラズマは典型的な多階層複雑系媒質である。プラズマ物理学の体系化は大きく進んでいるが、将来の核融合炉を見据えた場合、この研究展開がリアルタイム制御に直結するのかという疑問も感じざるを得ない。講演者は、実験・シミュレーション等の大量データ蓄積により、統計数理モデリングの考え方を導入できるのではないかと考え、研究の新展開を模索している。昨今、この文脈でのPromisingな成果がいくつか、若手研究者を中心に得られており、それらを統合することでリアルタイム制御につなげることができそうである。まだ柔らかい段階ではあるが、そのような現状・展望について発表し、参加者皆様と議論させていただきたいと考えている。


吉田恭(筑波大数理物質系)
波数空間における定流束状態を用いた乱流のアンサンブルモデル

乱流のアンサンブルモデルとして、エネルギーなどの保存量が波数空間上で一定の流束で流れる定流束状態を集めたものを提案する。2次元流体の定エンストロフィー状態についてモンテカルロ法によりアンサンブルからのサンプリングを試みその状態の性質を調べる。


松本剛 takeshi あっと kyoryu.scphys.kyoto-u.ac.jp